漢字がなかなか覚えられない,とか,英単語が覚えられない,とか,そもそも勉強するのが苦手,という人がいます。
「努力が足りないんでしょ?」「がんばればできるはず」なんて思ってしまいますし,周りからそういわれて,「自分は努力できないんだ」「自分はばかなんだ」と思ってしまっている子供がいます。
そういう子供の中に,障がいが隠れている場合があります。
学習障害の一種,ディスレクシアです。
中1ショック~英語が始まってディスレクシアが発覚~
ディスレクシアとは,学習障害の一種で,読字障害,読み書き障害とも呼ばれます。
知的能力および一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害である。 失読症、難読症、識字障害、(特異的)読字障害、読み書き障害、とも訳される。
Wikipedia
程度の差があり,漢字を学ぶようになってから,「なかなか漢字を覚えられない」ということでディスレクシアの診断に至る場合もあるようですが,小学生のうちは何とか乗り越えられたものの,中1で英語の学習が本格的になって初めてディスレクシアが発覚するということがあります。
なぜ漢字は書けたのに英語でつまずくかというと,ディスレクシアの背景には、文字を対応する音に置き換えられない,という音韻化の困難があるためです。
音韻化とは,文字と音の結びつきに対する理解で,たとえば「りんご」という単語は「り」と「ん」と「ご」という三つの音を表す文字でできているのですが,これをスムーズに読めないのがディスレクシアの特徴です。
ひらがなの場合は,一つの文字に対して(「は」などは別として)基本的に一つの読み方しかないため,比較的読みやすい文字なのですが,アルファベットの場合は,”a”でもさまざまな読み方があり,さらに日本語で言うところの「は」を表すためには,”h”と”a”という二つのアルファベットを足すことを理解していなければなりません。
そのため,アルファベットを使う国ではディスレクシアの比率が日本よりも高く,日本では約5%と言われているディスレクシア人口が,アルファベット圏では10%ー15%とも言われています。
つまり,小学生ではディスレクシアの困難をそれほど感じなかったのに,英語が始まってとても苦労する,という場合が一定の割合でいて,しかもそれは中1の1割もいる可能性があるということです。
実は,こういう障害があることを,長い間知りませんでした。
クラスの1割もの友達が困難を抱えていたかもしれないのに,何も知りませんでした。もしかすると,当人たちもいまだに知らずに生活してらっしゃるかもしれません。
私が初めてディスレクシアのことを知ったのは,テレビ番組でした。文字の読み書き以外,すべてできるし知能も高いのに,なぜか文字はからっきしできない。そこで,中学卒業と同時に,伝道芸能の師匠に弟子入りして,充実した毎日を送っているお子さんが取り上げられていました。
時をほぼ同じくして,ディスレクシアのお子さんに英語を教えてほしい,という依頼を受けました。
中1の初めに,ともかくローマ字が書けない。名前も何度書いても書けない。英語の単語に及んでは,書くことさえ拒む。手に負えない,というご相談でした。
ともかく英語嫌いなのは分かったので,最初の2か月はほぼ書かせずに勉強を進めました。関係が構築できたころ,少しずつ英語を書かせてみると,確かに書けない。
そして,書けないだけでなく,読めないことに気づきました。
書けない,とは聞いていましたが,その背景には読みの困難があり,さらにその背景には音韻化の困難があることがはっきりと分かりました。
例えば,”dog”と書いてあったときに,すでに知っている単語なので,ドッグ,と読めるのですが,これは”d-o-g”という三つのアルファベットを合体させて音にして読んでいるのではなく,dogという一塊の単語をあたかも写メするように頭に記憶させて読んでいるだけでした。
中1の最初の方は,ほぼ知っている単語しか出てこないため,そのことに気づくのが2か月くらい遅れました。
書けないとは聞いていましたが,読めないとなると,教科書も読めない,問題集の問題文さえも読めない,ということになり,これは大変だと思いました。
そのように,中1になって英語の読み書きの困難により,ディスレクシアが発覚するお子さんがいる,ということをこのとき身をもって知りました。
その後のストーリー
さて,学校の英語の授業は待ったなしで進められますから,一刻も早くディスレクシアについて調べ上げ,取るべき対策を取っていかなければならないことが分かりました。
音韻認識のあるお子さんと同じように,「単語10回書いて覚えて。だめなら20回!」なんてやっても,まったく意味がないのです。
不勉強でまったく知りませんでしたが,ディスレクシアの研究は学習障害の中では進んでいるそうで,確かにさまざまな研究者の文献を検出して読むことができました。
ただ,全体の1割いるかもしれないという割には,中1ショックのその後の経緯についての情報はほとんどありませんでした。
わたしが知りたかったのは,何をすれば,いつどの程度まで読めるようになるのか,ということでした。
フォニックスとの出会い
そんな中,分かったことは,現在のところ,決定打となるようなディスレクシアの補完方法はないけれども,フォニックスが役立つお子さんが一定数いて,フォニックスが現在分かっている唯一の対策だということでした。
フォニックスというのは,音と文字を結びつけるアルファベットのルールをシステマティックに教える方法です。
これにより,音韻認識というものがフォニックスの知識により補完されて,読めるようになる場合がある,とのことでした。
そこで,直ちにフォニックスを教え始めました。学校の勉強はそこそこに,フォニックスを最優先にしました。学校の勉強は一時的なものですが,フォニックスは子のお子さんの将来を左右する,と思っていました。
すると,初回から早くもいくつかの言葉を読めるようになりました。フォニックスの一部のルールを教えると,それを使って読めるようになったのです。
これはすごい,このお子さんには効果がありそうだ,ということで,数か月間フォニックスを続けました。
「英語は一生書けない子」が英語のテストで8割を超える
フォニックスをきっかけに,徐々に英語が読めるようになっていきました。そうは言っても,初見の単語を読むには時間もかかるため,学校の授業内容が分かるよう,並行して,教科書本文の内容を先取りして教えました。すると,学校の授業が分かるようになってきて,英語への劣等感が少しずつ薄らいでいきました。
フォニックスを教え始めて半年後,中1の学年末テストで8割以上得点しました。
中1の初め,学校から出されたローマ字のプリントで困難が発覚し,「この子は一生英語を書けないかもしれない」と親御さんは思ったそうですが,そのお子さんが半年たって,まだ困難はあるものの,自力で問題文を読み,答えを書くことができるようになりました。
フォニックス開始から4か月ほどでかなり読めるようになったため,それまで読むことに割かれていた集中力を文法へと注ぐことができるようになり,この辺りからマイナスがプラスに転じた,と感じました。
今後の課題は長文です。単語が多いため,長文への苦手意識がとても強いのですが,これを克服しなければ受験を乗り越えられませんので,また対策を考えていきたいと思います。
同じように中1で苦しんでおられるお子さんがいらっしゃったら,こんな例もあるよ,あなたは決して怠けも者でもないし,頭が悪いわけでもないよ,と伝えたいと思い,書いてみました。