「うちの子,全然勉強しないんですけど,どうしたらいいですか?」
「子供のやる気スイッチが分からない」
「スマホばっかりで全然勉強しない」
反抗期真っただ中の子供との関係はただでさえ難しいのに,勉強をさせねば,という不安が加わると,さらに親子関係は混乱しますよね。
親はついつい親の視点で見てしまいますが,今日は子供の視点からこの勉強しない問題について考えてみたいと思います。
お母さんだってしてこなかったくせに
今はどんな情報だってネットに載っている時代。勉強方法だってググればいくらでも出てきます。
「これなら20点上がる」「これだけやれば90点確実」などのうたい文句を見ると,ついつい子供にそれを勧めてみたりするかもしれません。
あるいは,自分が勉強してこなかった結果苦労しているから子供には同じ道を歩んでほしくない,と思って子供に勉強をするよう言うかもしれません。
親の視点から見ると,これは子供の現在と将来の幸せのための善意の声掛けやアドバイスのように見えます。
でも,子供たちはどのようにこれを見ているのでしょうか。
中学生と話をしていてよく耳にするのは,「ママは勉強しなかったくせに,ママに何が分かるの」「お母さんは勉強してこなかったんだから,偉そうなことを言うな」という言葉です。
中学生にもなると,発言の真偽や真意を吟味するようになります。その評価基準の中に,発言者への信頼度があります。発言の信ぴょう性を評価するのに,発言者がどれだけ信頼に足る人間かをよく見ているのです。
さて,多くのパパママは,「自分が勉強してこなかったから,子供には同じ間違いをおかしてほしくない」という理由で,自分がしてこなかった勉強を強いようとしますが,これははっきりと言えば効果がありません。例えばあなたがマラソンを速く走れるようになりたいと考えていて,結果を出したことのない一介の市民ランナーのアドバイスと大会で賞をもらったことのあるランナーのアドバイス,どちらを聞くでしょうか。
市民ランナーが,「ぼくはこれができなかったけど,本当はこの方法がいいらしいよ。だから,ネットに出ていたこの最高のトレーニングをして,一日に40キロ走りなよ!」と言われて果たして説得力があるでしょうか。納得するでしょうか。
同じように,子供が親の言うことを疑いもせずにきくのは,小学校の中学年までです。その後は,親が信頼に足る存在でないと思えば,まったく意見に耳を貸さなくて当然だと言えますし,むしろそのくらいでないと,社会に出て行ってすぐに騙されてしまうような人間になるでしょう。
ですから,両親のうち,どちらかがしっかり勉強して成果を出してきたならば,その人が勉強についてのアドバイスをする担当者になるとよいでしょう。
子供が勉強したくなる親の関わり方
さて,では両親ともに勉強をしてこなかったから子供には同じ轍を踏ませたくない,という場合,親は手をこまねいて子供の成績がどんどん落ちていくのを見ているしかないのでしょうか。
ここでは,思春期に効果的な「間接技」が効果的です。
親が勉強についてのアドバイスをしても信頼度に欠ける場合,子供が信頼のおける大人からのアドバイスが効果的でしょう。
学校の先生でもいいですし,塾の先生でもかまわないので,親が伝えたいことを間接的に子供に伝えてもらう方法です。
餅は餅屋に,というわけです。
では,親にできることとは何でしょうか?
それは,「余計な口を出さない」で「応援」することです。
野球部のマネージャーのような存在かもしれません。マネージャーは監督ではありませんから,グラウンドに降りて,汗水流している選手にあれこれ細かい指示はしません。もし突然,野球のことについては素人のマネージャーがバットの振り方についてあれこれ口を出されたら,選手は暴動を起こすかもしれません。
マネージャーは,環境を整えることに専念します。子供が勉強しやすいように,家の整理整頓をしたり,塾の送迎をしたり,試験前は好きなご飯で応援したり,夜中まで勉強していれば差し入れを持って行ったり,悪い点数が出て落ち込んでいれば,「次にがんばればきっと大丈夫」と声をかけるのです。
このようなマネージャーの応援を受けた子供は,もっと頑張る力を得ます。こちらも餅は餅屋。このようなことは,親にしかできない特権です。
子供に口を出したくなったら,まず自分の昔を振り返ってみるといいでしょう。そうすれば,「もっとやれよ」と言うかわりに,「よくやってて偉いな」と言うでしょうし,おのずと子供を応援したくなるのではないかと思います。
結果よりもプロセスを評価する
小学生のころは中庸を基本とする学校教育ですが,中学校に入った途端に勉強で順位をつけられる世界に足を踏み入れます。というか,気づくとその世界にいます。
高校受験のことがちらつき,ついつい親は「~位になれなかったらゲームは取り上げる」とか「~位になれなかったら塾に行きなさい」とか言うかもしれません。
でも,順位や偏差値は他者との比較の産物ですから,子供自身の努力を評価するには馴染みません。
走るのが苦手な子に「マラソン大会で50位に入れなかったら~」という条件をつけることに効果がないのと同様に,勉強が好きではない大半の子供にとって,親にまで順位や偏差値で評価されることは,学力向上の効果にはつながりませんし,自信ややる気を失う恐れもあるので有害です。
勉強は脅しや強要によりやらせるものではありません。比較の対象は,それまでの子供と比べて成長したか,と言うことにつきます。子供の結果がどうあれ,前回の試験よりも今回の方が時間をかけていた,あるいは新しい勉強方法を自分で試してみた,などの改善点があれば,そこを全力でほめるべきです。その結果が出なくても,かまいません。そのうえで,次に改善する方法を冷静に考えればよいだけです。
小学生までの無垢な子供が思春期に入ったら,親もやり方を変える必要があります。発想の転換を図るのは簡単ではありませんが,それがよい親子関係と子供のよりよい未来につながるように思います。