緊急事態宣言,さらには文部科学大臣から各都道府県教育委員会に向けられた,「高校入試の範囲と問題には配慮をするように」という宣言から2か月以上たちました。
全国の都道府県の教育委員会から,2021年度公立高校入試の範囲がほぼ出そろいました。大胆に範囲の削減を行った都道府県から,まったく影響のない,通常通りの出題範囲の都道府県まで,様々です。細かく見ていきたいと思います。
コロナウィルスによる休校で生徒たちが受けた影響
コロナウィルスのために,長期間の休校が実施されました。
突然休校になり,学校のサポートもほとんど受けられず,特に塾に通っていなかった受験生は大きな影響を受けたはずです。
中3と言えば,例年とおりであれば,一刻も早く出題範囲の学習を終えて,演習問題や過去問の取り組まなければなりません。学校が通常通りある場合,この先取り学習は,中2までに開始していない場合には,おもに中三のゴールデンウィークや夏休みを使ってやるわけですが,休校のせいで学校の授業さえも受けられず,さらには休校の影響で夏休みが短縮されたために,先取り学習や演習に充てる時間が大幅に減っています。
もちろん,休校中に受験勉強を進めればよかったわけですが,そんなことができる生徒は1割にも満たないでしょう。
学校や塾は,勉強を教えているだけでなく,子供たちのやる気スイッチを押してくれたり,受験までのスケジュールを含め,さまざまな知恵やアドバイスをくださいます。それが数か月ストップしたわけですから,自分で考えて勉強を組み立てる能力のなかった子や,塾をはじめとするサポートを受けられなかった生徒は,大きなハンディを負ったと言わざるを得ません。
2021年度コロナ高校受験に対する文科省の通達
このような苦境を受け,2020年5月中旬,文部科学省から各都道府県の教育委員会に,受験生ファーストとも言うべき通達が各都道府県の教育委員会に出されました。
その内容とは:
「出題範囲や内容,出願方法で不利にならないよう,適切に工夫する。」
それだけでなく,ご丁寧に,「配慮」の例として,次のようなものを挙げました:
・中3の内容からの出題は適切な範囲となるよう設定
・問題を複数から選択できる出題方法とする
義務教育を受ける機会が権利の一つとして憲法に定められているわけですから,その権利を奪われた子供たちに対して何らかの配慮をするのは当然といえば当然です。
ただいま夏休み。多くの都道府県の教育委員会から,2021年度公立高校入試の出題範囲についての通知が出ていますが,なかなか状況は生徒にとって厳しいものと言わざるを得ません。
2021年度入試に関する各都道府県の配慮。出題範囲の削減はあるのか??
関東圏の2021年度公立高校入試の影響
東京都の2021年度公立高校入試の影響
【出題範囲から除外する内容】
〇国語:中3の漢字
〇数学:三平方の定理・標本調査
〇英語:関係代名詞のうち,主格のthat、which、who及び目的格のthat、whichの制限的用法
〇社会:『私たちと経済』の「国民の生活と政府の役割」,『私たちと国際社会の諸課題』
〇理科:『運動とエネルギー』の「力学的エネルギー」,『科学技術と人間』,『地球と宇宙』の「太陽系と恒星」,『自然と人間』
東京都は,全国でも最も早く入試範囲の削減を発表した都道府県の一つです。しかも,その削減の規模がトップクラスです。
特に,英語から関係代名詞をを除外する,というのは極めて大胆な削減です。関係代名詞は,実に高校受験英語の柱に一つだからです。これを除外するとなると,長文はもはや長文たりえず,英語は高得点勝負にならざるを得ないでしょう。
都立高校を志望する受験生は,除外される範囲をしっかりと確認して,出題範囲をしっかりと固めるのが得策のようです。
神奈川県の2021年度公立高校入試の影響
東京から遅れて出題内容の除外を発表した神奈川県。
その内容は以下の通りです。
【範囲から除く内容】
国語:3年生で習う漢字
社会:「私たちと国際社会
の諸課題」
数学:「資料の活用(標本調査)」(中3)
理科:「科学技術と人間」「自然と人間」
英語:中3で習う英単語
「言われたから仕方なくやった,一応ね」といったような削減内容です。
削減されたのは,言葉は悪いですが,学年の最後の時間調節に存在するような,重要度の低いテーマばかり。
神奈川県の受験生は,通常通りの試験勉強を強いられそうです。
≫神奈川県と東京都の出題範囲の比較についてはこちらから
埼玉県の2021年度公立高校入試の影響
【出題しない範囲】
国語:中3で学習する慣用句・四字
熟語、漢字
社会:「私たちと経済」「私たちと国際社会の諸課題」
数学:「相似な図形のうち、日常生活で相似な図形の性質を利用する場面」「円周角と中心角」「三平方の定理」「標本調査」
理科:第1分野「科学技術と人間」
第2分野「地球と宇宙」「自然と人間」
英語:関係代名詞のうち、主格の that、which、who 及び目的格の that、which の
制限的用法(接触節も出題しない。)
・主語+動詞+what などで始まる節(間接疑問文)
埼玉県は,東京都と同程度の大胆な出題内容の削減です。高得点勝負が予想されますので,出題範囲をよく確認のうえ,集中的に対策が必要です。
千葉県の2021年度公立高校入試への影響
一言で言えば,神奈川県と似たような内容で,削減の熱意はまったく感じられません。受験生は,2021年度も通常通りの試験範囲を勉強しなくてはなりません。
大阪
出題範囲から除外する内容:
国語:
一部の漢字
社会:
・『私たちと経済』のうち「国民の生活と政府の役割」
・『私たちと国際社会の諸課題』
数学:
円周角と中心角,三平方の定理,資料の活用
理科:
『科学技術と人間』『自然と人間』
英語:
『現在分詞及び過去分詞の形容詞としての用法』のうち「後置修飾」
コロナの大きな影響を受けた大阪ですが,東京ほどの大鉈はふるいませんでした。
数学では円周角や三平方の定理を除外していますが,英語の関係代名詞も除外せず,理社も大きな除外はしていません。
北海道
【出題範囲から除外する内容】
国語:中3の漢字
数学:・相似な図形 ・円周角の定理 ・三平方の定理 ・標本調査
社会:・私たちと経済 ・私たちと国際社会の諸課題
理科:【第1分野】
・『運動とエネルギー』の「力学的エネルギー」 ・科学技術と人間
【第2分野】
・地球と宇宙 ・自然と人間
英語:関係代名詞のうち、主格の that、which、who 及び目的格の that、which
の制限的用法
※同様の働きをもつ接触節(SVによる後置修飾)も出題しない。
同じく,コロナの大きな影響を受けた北海道は,東京と同レベルの入試問題の削減を行っています。
その他の都道府県の2021年度入試への影響
全国各地の都道府県の公立高校入試の詳しい出題範囲については,こちらにまとめています。
コロナの影響を打破する勉強方法
戦う相手も条件は同じ
都道府県によって範囲の差がありました。東京都と神奈川県など,隣県ですが,まったく範囲の削減の程度が異なります。
「あっちの県に住んでたらよかったのに」なんて思う人がいるかもしれませんが,公立高校入試の場合,受験者はほぼ同じ都道府県内の生徒ですから,条件は同じです。
ぼやいても状況は変わりませんから,あらゆるリソースを使って勉強するしかありません。
2021年度入試は高得点勝負が多発!?
除外される範囲が多ければ多いほど,重要なテーマが出題されないことになり,高得点勝負になることが予想されます。自分にとっても簡単ですが,ほかの人にとっても簡単なのです。
高得点勝負の入試で大切なことは,「みんなが取れている簡単な問題を落とさない」ということです。つまり,ホームランを打つことよりも,三振とエラーを撲滅することをまずは優先しなければなりません。
中学生は自分のミスをよく「凡ミス」などと軽く扱いますが,実はここが勝負の別れ目だったりするのです。
自分がいつもどんなときにどんな「凡ミス」を起こすのかを精査してそれを撲滅することに取り組めば,1教科5点×5教科=25点アップもできるのです。
中学卒業から高校入学までにしっかりと勉強する
公立高校入試は各都道府県内の争いですから,範囲が広かろうと狭かろうと戦う相手と条件は同じです。
ですが,大学受験はそうはいきません。
公立高校入試で除外された範囲も,中学在学中に教え終わる,どの教育委員会も明言しています。
除外された範囲が広い都道府県ほど,その除外範囲を高校入学までにしっかりと理解しておく必要があります。
例えば,三平方の定理や関係代名詞は高校でも使いますから,理解の浅いまま高校に進学することのないように,もちろん入試が終わってからでかまいませんが,あたかも受験勉強のように必死にその範囲の演習をして高校,さらには大学受験に備えておかなければなりません。
どうしても解放的な気分になってしまう中学卒業後にこれをするのは大変なことですが,高校入試は単なる通過点に過ぎないことをよく自覚して,真剣に取り組むことが後々重要になるでしょう。